- シラビソ
- 南アルプス
- 林業の歴史
- 大井川とダム
- ナチュラスサイコスの想い
- シラビソとは -
シラビソはモミ系の樹種で、本州中部では、標高1500~2500m付近の登山家などが足を踏み入れる亜高山帯地域にのみ育つ針葉樹で、一般的な平野では発育することができません。そのため、登山の趣味がない方は、目にする機会のない植物です。非常に限られた場所でしか見ることのできないシラビソは「しらべ」など様々な呼び名があります。
シラビソの起源は、北海道・千島列島・樺太に分布するトドマツと言われており、このトドマツが、最終氷期、またはそれ以前の氷期に本州まで南下してきて、氷期の終了とともに本州中部の山岳地に取り残されたものの子孫と考えられています。近縁種は北海道や海外に存在しますが、シラビソは日本の本州と四国にしか生育していません。
シラビソの木材については、「かまぼこの板」として使用されてきています。
南アルプス産のシラビソは赤石山脈の標高1900m~2500m付近のものを使用しており、これほどの標高の場所からの調達は他にないとみられ、非常に貴重なものです。
シラビソは一般的にはあまり長生きする樹種(寿命は100年程度)ではありませんが、南アルプスのシラビソは240年近く生きているという話もあります。
ただ、シラビソは「縞枯れ現象」と呼ばれる「枯れて新しい命が芽生える」サイクルを約200年ごとに繰り返しています。この「縞枯れ現象」は、台風などの風が群生地のシラビソを帯状に倒してしまいます。そして、倒された群生地一帯は、シラビソの幼樹が力強く再び芽生え、また元のシラビソの林を形成していくこととなります。
- 南アルプスの地形・気候 -
南アルプスは、北部、南部、深南部の3つに分けられます。シラビソが収穫される森は南アルプス南部に位置しています。
南アルプスはフォッサマグナと中央構造線で区切られた地域で、プレートの動きによって海底の堆積物が隆起し3000m級の山脈となったと言われ、現在も年間4mm以上の速度で隆起し、この速度は世界最大級と言われています。そして、世界最大級の隆起速度であることや、崩れやすい地質上の特性、豊富な降雨量の影響で地形の浸食速度も世界最大級で、山頂部には、カールや構造土などの氷河関連の地形が残されています。
また、温帯から寒帯にかけての気候帯が垂直分布しており、寒帯に相当する高山を中心に、日本における南限種が多く分布しており、その南限種が多く育っていることが、南アルプスが評価されている一つのポイントとなっています。
気候は、夏は南東からの季節風の影響を受けて雨が多く、蒸し暑い天気が多いですが、冬は北西からの季節風の影響によって、冷たく乾いた風が吹き、晴れた日が多いことが特長です。夏の時期は降雨量が多く、シラビソの森には霧がかかっており、幻想的な世界が広がります。サルオガセという樹木の樹皮や枝上で育つ植物の発達も、夏の湿度の高さを証明してます。
ただ、周辺の集落の年間降雨量は3000mmで、夏の期間に雨が一気に降り、冬の間はほとんど降りません。この異常なほどの夏と冬の降雨量の差は、南アルプスの頂上を源流とする、大井川流域に「洪水被害」という歴史を作ってきました。この歴史から大井川上流では数箇所のダムが建設され、現在では洪水の被害がない地帯となっています。
夏の極めて多い降雨量によって、栄養豊富な土が流され土壌が痩せてしまう影響と、岩石が多く根が張りにくい土質、そして寒冷地であることから、南アルプスの樹木は目が詰まっていると言われており、シラビソもその厳しい環境で育っています。
- 南アルプス林業の歴史 -
シラビソが生息する森は1895年に大倉財閥の祖「大倉喜八郎」が購入した私有林です。
「大倉喜八郎」は大成建設、東京経済大学、サッポロビール、帝国ホテル、リーガル、ニッピなどの創業に関わった人物です。ご子息の大倉喜七郎は、ホテルオークラ、上高地帝国ホテル、川奈ホテル、赤倉観光ホテルなど、日本のホテルの礎を築いた歴史を持ちます。
大倉喜八郎は、豊富な森林資源と大井川から、木を川に流して木材を運搬し、水力発電と組み合わせて製紙業を始めました。
その後、1964年には保有する森の一部(約2600㎡以上)が南アルプス国立公園に指定されます。
その後、1982年には台風による被害に加え、安価な海外産の木材が市場を満たし、木材生産を中止せざるを得ない状況となります。 現在では、道路整備等で、多少なりとも木材がでますが、それらは運送費のコストが合わないため、すべて現地で破棄されてしまっていますが、いただいた命を別に活かせる方法を模索されています。
- 南アルプス林業の現状 -
このシラビソが生息する森は「自然を守り、自然を活かす」という理念で管理されています。
◯ 森林に対する人為的影響を極力排除し、自然環境の保全と活用の調和をはかること
◯ 自然環境の保護・保全を最優先としつつも、自然環境の恩恵を有効活用することで、社会に対し豊かな生活を提供すること
などを方針として管理されています。
かつては林業で栄えた森ですが、現在では伐採された場所も自然林に戻っています。
シラビソが生息する標高の高い部分には、当時の林業の手が届かなかったこともあり、原生林が当時と変わらぬ形で残っています。
- 大井川とダム -
南アルプスの山頂を水源とする大井川は静岡県内では、天竜川、安倍川とならび、代表的な川です。
大井川水域の夏の多量な降雨のため、栄養豊富な土は流され、代わりにたくさんの土砂が川の表面を覆ってしまうため、川の表面に植物が育つことはほとんどありません。その姿から、夏の降雨量の多さと、もろい地質で痩せた土地であることが想像できるのではないでしょうか。
そうしたことから、過去より洪水被害で悩まされていたこの地域では、数十年前にダムがいくつも建設されています。このダム建設のおかげで洪水被害はなくなり、冬の間の水不足も解消され、人々の生活は安定してきました。
しかし、現在思いもよらぬ「不自然」が起こるようになりました。ダムを建設してから数十年が経つうちに、大井川の上流では堆積した土砂で、川がどんどん埋まってきています。過去は川底から橋までの高さが数メートルあった場所が、現在では川底から橋まで簡単に手が届くほどの距離になってしまっています。
川が土砂で埋まってしまった理由には、下記のようなことが推測されています。
- ダムを建設する
- ダムより上流で水位が上がる
- 大雨でさらに水位が上がり、水の勢いで山肌の下部が削られる
- 山肌の下部が削られることで、山の中腹から上部まで滑落が起こる
- 大井川に土砂が堆積する
- 2~5を繰り返す
もともと山の岩質自体がもろく、崩壊が激しい土地であるところが一番の原因であり、そこにダムを開発した自明の理です。このほかにも多数の要因があると言われています。
日々、大井川に堆積する土砂の量は10tトラック500杯分とも言われています。考えてみると、毎日10tトラックを500便手配しても、平行が保たれるだけで、川底の深さは変わりません。数年のうちに写真の橋は流されてしまい、山肌の側道も土砂で埋まってしまうことが予想されます。
ダム建設は人々の生活を豊かにしたことは間違いありません。この建設がなければ、周辺の住民の豊かな生活は守れませんでした。だから、否定することはできません。
言葉で「自然と共生する」と簡単に言えますが、ここまで大きな規模となると、その難しさは計り知れず、日々の行動に、広い視野と慎重さが必要と感じる事象です。- ナチュラスサイコスの想い -
南アルプスでは現在リニア新幹線のトンネル工事が行われようとしています。
このトンネル工事で「自然」が「不自然」になってしまわないか、周辺住民たちは心配しています。特に現在、大井川の「水量」にスポットが当たっています。
トンネル工事を行うことで、大井川の水量が毎秒2t減少するそうです。毎秒2tの水量は約60万人の生活用水に相当するそうです。JR東海は減少した水を戻すと約束していますが、またしても「不自然」が起こってしまわないか心配です。
リニア工事の現場近くを訪れると、様々な調査隊に出くわします。双眼鏡を持った野鳥をひたすら観察する隊、清流に生息する魚を釣って観察する隊など、南アルプスの中にある宿では、様々な方が日々働き、調査を続けています。
今後この調査は永遠に続くのかもしれませんが、「自然との共生」ができる限り実現出来る形であって欲しいと、心から祈るばかりです。
シラビソが群生する地帯はほとんど手付かずの場所です。
もちろん、周辺数十キロにわたり、畑や田んぼはなく、そこからの水を媒介とした、化学農薬、化学肥料とは無縁の地域で、弊社が採用しているオーガニック認証機関の基準と照らし合わせても、まさしくオーガニックな土壌です(シラビソの森は広大で土壌の認証手続きができないため、オーガニックの認証原料ではありません)。
オーガニック認証の本当の意味は、持続可能な原料生産活動という意味を含んでいます。
確実に土壌自体は問題がなく、手続きを踏めばオーガニック認証がとれる原料ではありますが、持続可能な原料生産活動という意味では、周辺環境が刻々と変化しているため、南アルプスのシラビソは将来消えて無くなってしまう可能性を秘めています。
私たちの孫、ひ孫、玄孫の世代まで残していきたい天然の恵であることは間違いありません。
ぜひ貴重なシラビソ精油を手に取っていただき、
南アルプスの大自然を肌で感じ、
「自然との共生」に少しでも想いを馳せていただければ幸いです。
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